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神戸地方裁判所 平成3年(わ)894号 判決

国籍

大韓民国(慶尚北道達城郡玉浦面盤松洞八〇九番地の二)

住居

神戸市長田区上池田四丁目一番一号

遊技業

田中茂雄こと陳永述

一九二二年六月九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田村範博出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、神戸市長田区松野通一丁目三番四号において「長田ダイエイ」の名称でパチンコ遊技業(パチンコ屋)を、同区若松町三丁目六番六号において「田中ゴム工業所」の名称でケミカルシューズ製造業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六二年分の総所得金額は六、七四五万七、九〇〇円で、これに対する所得税額は、三、二九二万六、七〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により総所得金額の全額を秘匿した上、同六三年三月一一日、神戸市長田区御船通一丁目四番地所在の所轄長田税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額は一、九〇七万一五四円の損失で、納付すべき所得税額がない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三、二九二万六、七〇〇円を免れ

第二  昭和六三年分の総所得金額は九、四四〇万八、七八九円で、これに対する所得税額は四、七二一万八、〇〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により総所得金額の全額を秘匿した上、平成元年三月四日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、同六三年分の総所得金額は七五四万八、九九一円の損失で、納付すべき所得税額がない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四、七二一万八、〇〇〇円を免れ

第三  平成元年分の総所得金額は一億五、五〇四万二、三二一円で、これに対する所得税額は七、三〇六万九、五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により総所得金額のうち一億二、七五三万八、一六八円秘匿した上、同年三月一五日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、同元年分の総所得金額は二、七五〇万四、一五三円で、これに対する所得税額が九三二万七、〇〇〇円(ただし、申告書は九〇七万七、〇〇〇円と誤って記載)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七、三〇六万九、五〇〇円との差額六、三七四万二、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する供述調書一七通

一  大蔵事務官作成の査察官調査書四五通

一  文相順の大蔵事務官に対する供述調書二通

一  陳順姫の大蔵事務官に対する供述調書

一  中山照美の大蔵事務官に対する供述調書

一  池祥元の大蔵事務官に対する供述調書

一  木村安夫の大蔵事務官に対する供述調書

判示事実第一について

一  大蔵事務官作成の証明書(検甲1)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲4)

判示事実第二について

一  大蔵事務官作成の証明書(検甲2)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲5)

判示事実第三について

一  大蔵事務官作成の証明書(検甲3)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、所得税法二三八条に、それぞれ該当するので、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内、罰金刑については、刑法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年二月及び罰金三、五〇〇万円に処し、後記情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、右罰金を完納することできないときは、刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店等を経営する被告人が、三年間にわたり、総額約一億四、〇〇〇万円の所得税を逋脱したという事案であるが、その動機は、酌むべき余地が少なく、逋脱税額は相当多額で、昭和六二年、六三年の両年分は、いわゆる赤字の所得申告により所得税額を全額免れ、平成元年分も、所得税額の八七・二二パーセントを逋脱し、その平均逋脱率も約九四・四パーセントの高率に達していたのであり、逋脱の方法も、殆ど毎日のようにパチンコ店の売上金から最高一〇〇万円ないし最低一〇万円を除外して、取引金融機関の仮名普通預金口座に入金して、これを多数の仮名定期預金、定期積金等に組替え不正な蓄財を図り、他方では、コンピューターの売上データ表を廃棄して証拠を湮滅し、金融機関職員と結託して、仮名の普通預金口座を頻繁に解約して名義を変更するなどして逋脱の発覚を困難にしていたのであり、納税意識は極めて低かったことなどに鑑みると、犯情は甚だ悪質であって、被告人の刑責は重いといわざる得ない。

しかしながら、被告人は、本件起訴後、税務当局の指示するとおり修正申告の手続きをして、三年間の逋脱税額全額の納税義務を履行し、遅ればせながらも、納税義務について理解を深め、現在では、関係当局の指示に従い業界に先駆けて先払い式カードを導入して、売上金の明瞭化に踏み切り、十分反省していることが認められること、本件犯行の背景には、被告人の夫婦の老後や難聴の長男に対する将来の不安を慮った面もあること、被告人には前科がなく、高齢であることなどの諸事情を考慮し、主文掲記の刑に処することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川隆司)

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